2007.07.19 No.175 |
災害にあっても「自己責任」? 格差是正が税の役目
参議院選挙を前に・農家の戸別所得補償について |
夜の8時半。仕事が終わって家に入る時、今夜は久しぶりに星が出ています。さそり座が輝いています。細い三日月に夜の日名倉山が浮かんでいます。
長いこと星を見たことがないような気がします。雨ばかり降っていました。畑の物も今年はどうもできが悪いようです。ナスもピーマンも思うように成りません。
台風の方はほとんどたいしたことなく過ぎたので助かりました。皆さんのところではいかがでしたでしょうか。台風が過ぎたと思えば、今度は地震。災害が続きますね。
災害が起こるたびに、日本という国の豊かさに疑問がわいてきます。なんだか「自己責任」なんていう言葉が飛んできそうで。自分で努力するのはもちろんだとは思いますが、家がつぶれたり、田畑が水浸しになってしまったり、そんな不可抗力に対して、国として地域として、立ち直るためのしっかりした支援がなされる。それは国の役割ではないかと思うのです。
参議院選挙の最中ですが、本当に、今の日本という国は、一部の大企業、それにのっかる官僚・政治家、そのあたりに好きなように税金を取られ、持っていかれているように思えてなりません。
グローバリゼーションの影で、世界的な巨大企業どうしも、裏でははげしいつぶし合いがあるのでしょうが、その巨大資本の弱肉強食のルールが、一般社会をズタズタに引き裂き、人が本来持っていた助け合いの心、社会システムを崩していっているように思えてなりません。
家がつぶれた者は運が悪かったね。貧困におちいった者は努力不足だね。そうやって個人の責任にされ、自分で何とかしろと。
でも、そんな時こそ、みんなが出している税金の出番ではないのでしょうか。税金で、最低限に立ち直るための費用は十分に出してくれる国。それが豊かな美しい国だと思うのですが。
格差是正が税の役目
選挙討論の中で、足りない財源のあてとして、「支出の無駄遣いをなくす」とか「やっぱり消費税導入」とかすぐ言われますが、何か忘れていませんか。持っている人、あまっている人からもう一度出してもらうことを。
この20年間で富裕層、大企業の税金は激減しました。その分、消費税として一般大衆、明日の生活費もどうしようかと悩むような人からも税をしぼり取ってきました。いろんな控除もなくなりました。そして、今以上に消費税を上げ、さらにしぼれるだけしぼり取ろうというたくらみ・・・。
これが共に生きる社会、美しい国なのでしょうか。
前にも書きましたが、資本主義社会は、ほっておけば、金持ちはますます金持ちになっていくという根本的なシステムがあります。それを是正し、格差を少なくして社会を安定させるのが『税』ですよね。もともと金持ちの資産もおおもとは一般大衆が働いて作ったものなのですから。
もちろん、能力のある者、実力のある者は、人よりも多く儲けても当たり前。それが悪いとは言いません。しかし、ものにはバランスというものがあります。
一般労働者がいるからこそ能力のある者も儲けることができるのです。その格差があまりにも大きくなってくると、共に生きる社会、助け合いの社会なんて吹っ飛んでしまいます。まさに今がそうなのではないでしょうか。『世の中お金よ』こんな言葉が当たり前の社会です。
『そりゃ、ちがうやろ〜』とムキになって叫びたいのですが、やせ我慢も限界に近づいてきました。
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極端に低い日本の農家補償
民主党の宣伝をするわけではありませんが、同党の政策対照ビラに下の数字がグラフで載っていました。
農業所得に占める戸別所得補償の割合
アメリカ 46%
フランス 52%
ドイツ 50%
イギリス 71%
日本 0.7%
日本は中山間地の直接支払い等221億円しか支出していない
「ひよこ」172号に書きましたドイツの農家所得の話がこのことです。つまり、農家の収入の中でどれくらい国から補償・助成が占めているのかを表す数字です。アメリカ、フランス、ドイツでは約半分。イギリスに至っては7割が国からの補償、つまり、税金です。
単純に説明すれば、米1俵(60kg)5000円でしか売れなかったのに対して、1万円の補償を出す。つまり、15,000円の収入の中で10,000円(67%)が税金から補填されるということです。
「先進国の農業は国からの補償がなければ成り立たないのは経済学のイロハ」と書きましたがそれを裏付ける資料です。
だから、イギリスは穀物自給率が100%を越えることができたのですね。40年前は日本よりも自給率は低かった国です。
この農家に対する直接補償を民主党はすると言っています。(社民党も共産党も。)これは非常に画期的なことです。どこまで実現するかはわかりませんが、この方向性を持っていることだけは評価すべきではないかと思います。
自民党案は
一方、自民党も戸別補償はすると言っていますが、4ha(北海道は20ha)以上耕作する者に対してのみということです。しかしながら、この4haと言うのは、日本の実情において、まず不可能な広さです。中山間地域においては、どれだけの田んぼの枚数になるか。どれだけ田んぼを行き来しなければならないか。どれだけの畦の草刈りをしなければならないか。どれだけの水路の管理をしなければならないか。どれだけ機械をそろえなければならないか。鹿や猪の柵をどれだけしなければいけないか。
よほど条件のいい地域でない限り、少々の補償をもらったところで、4haも一軒の農家でできるものではありません。つまり、ごく一部の所、ごく一部の者以外は、ほとんど、補償はしないと言っているに等しいわけです。
ということは言い方を代えれば『もう日本で米は作らなくてもいい』と言っているに等しいように聞こえてきます。現状で関税を自由化すれば、米は90%の減産、自給率は12%になるといわれています。そして、事実、政府・自民党の経済財政諮問会議の中では、「12%も残るのならいいではないか」「自由化しても田んぼが荒れたら困るから作るという農家がいるなら、その価格で作れるということだから作ってもらえばいい」とそんな議論がされているそうです。「日本の農業、自民党なら大丈夫」これ自民党のキャッチコピーですが、どう思われますか。
民主党案も疑問は多いが
確かに民主党の言い分にも疑問は残ります。各国との貿易自由化と農業保護の両立が、この戸別補償で可能と言いますが、はたしてそうなのか。相手国は、制度はどうあれ、実質的に農産物を日本に輸出したいわけですから、この戸別補償はやめろと言ってくるでしょう。結局、農業を守るためには工業製品の輸出を程々に押さえるしかないのではと思います。
また、以前食管会計の赤字を財界がやんやと叩きました。「そこまで生産者に手厚くしなければならないのか」と。その批判に今度はどう答えるのでしょう。
そのあたり、民主党もきちっと説明できていません。
戸別補償は結局は消費者・国民の利益
しかし、皆さん、本当に私たちの食べるお米をアメリカ、東南アジア、などに全面的に依存してしまっていいのですか。
そこが不作になればどうするのですか。あるいは、イラク派兵もそうでした。「アメリカに食糧を握られていて反対できますか」これは当時の小泉首相の言葉です。食糧を握られたら言いたいことも言えない。日本の独立はどこに行ってしまうのですか。すでに、大豆、小麦、飼料作物はほぼ外国に依存です。うどんも豆腐も味噌も醤油も、卵も肉も、みんな元は外国産。これってすでに自立国家じゃないですね。
農家への戸別補償は甘いと思う方もおられるかもしれませんが、国家の自立のためには必要不可欠だと私は思います。それしか道はありません。甘いと思われるならあなた自身が米を作ってみて下さい。
それと、そうやって生産者の生活を保障することで、自給のみならず、食の安全も確保できるのです。最近、また中国からの輸入食品の危険性が言われています。ミートホープ社の事件もありました。消費者が安易に安さばかりを求めるとそうなってしまうのです。しかし、余裕のある人ばかりではない。現状だと、貧しい人は危険な物しか食べられない、それも始めに書いた共生の社会ではないですね。だから、税金で最低限の作物は、個人に変わって高く買い、日本人誰もの安全・安心な食を保証しようということです。これは最低限の国家の勤めだと思います。
戦後農政の一貫した流れ
「日本は原料を輸入して工業製品に加工して輸出する国。工業立国」こう私も小さい時習った記憶があります。それが、いつの間にか、工業原料だけでなく、食糧も輸入する国になってしまった。私が小さい頃は、日本は世界でも有数の漁業国と習いましたが、今や、魚の半分以上は輸入です。
結局、工業製品を世界中に売ろうと思えば、当然、相手国からもいろんな物を買わなければいけません。売るばっかりでは相手の国は破産します。だから、工業原料だけにとどまらず、当然、食糧も輸入の対象になってきたわけですね。
どんどんと農産物の関税を落として輸入自由化し農業を犠牲にし、その見返りに自動車・鉄鋼・電気製品…を売ってきた。そして、農村の若者を工場労働力として都市に呼び込みました。
しかし、農村票は欲しいので、田舎に金は落としてきた。それが、公共工事と言われるもので、道路、ハコモノ、上下水道、圃場整備…。もちろん、農村においてはその恩恵も大いにあるのですが、(無駄も多いですが)、そうやって、農村は整備されてきましたが、肝心の農業そのものは巧みにつぶされてきたのです。だから、当然、若者の農業者はいなくなり、先祖伝来の田を守ると、今、採算を度外視して、年輩者が頑張っているだけになってしまいました。
そして、ついに、今、その公共事業に回すお金も底をつき、土建屋はつぶれ、農業はすでにつぶされているので、田舎は何も仕事のないところになってしまいました。
これが戦後の一貫した流れです。結局、目先の金もうけに目が走ってしまい、一番大事な「農」「土」「命」をおろそかにした結果が、今の田舎の衰退なのだと思います。つまり、「土建業が田舎の主産業」というのが始まった頃から、いつかこうなることは決まっていたのだと思います。
そして、これは田舎の衰退だけでなく都市の荒廃とも裏表の関係だと思います。「今の浮き世に浮かれた暮らしを続けていればいつか日本はダメになる、それは分かっていたことだ」と近い将来きっと言っていることでしょう。
選ぶ政治で農政・日本も変わる
タラ話をしていたら笑われますが、もしも、日本人が、こんなに「お金お金」という国民ではなく、政治も「農は守ろう、命を大切に」という政治が選択されていれば、ひょっとしたら、稲作農家は戸別補償で守られ、米は、今や日本の主要な輸出品になっていたかもしれません。その分、トヨタをはじめとする超大企業の製品は今ほど輸出できていないだろうし、経団連も今ほど大きな力を持ってはいなかったでしょう。こんな工業国ではなく、オリンピックもできていなかったかもしれません。しかし、農村には「つなぎと長靴」の若者が多くいて、子どもたちの歓声も里山に響いている…そんな風景が広がっていたかもしれません。
でも、世界を見渡してみて下さい。そんな国がほとんどではないでしょうか。
国民の考え方で、選ぶ政治で、やっぱり世の中変わっていくのです。その典型が、この日本とイギリスの違いだと思います。
もうすぐ、参議院選挙ですが、年金ばかりではなく農業もしっかり見て下さい。田舎の衰退、農業の衰退は、田舎だけの問題ではありません。すぐに、都会の人に降りかかってくる本当に大きな問題です。
マスコミに要注意
しかし、ここでくせ者なのが、マスコミ、特にテレビです。テレビは財界がスポンサー。財界に都合の悪いことは、できるだけ流したくない。ここをしっかり意識しないといけません。みのもんた氏が本気で自民党批判をするでしょうか。特にワイドショーが小泉・安倍のムードを作ってきたと言われています。
そのあたりをしっかり見据えて、本当に大事なことは何か。一人一人何を言っているのか、しっかり、聞いて読んで、選んでいかないといけませんね。
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今号は選挙特集みたいになってしまいました。今回の選挙、少しだけ、楽しみにしています。
不勉強な中で間違ったことも書いているかもしれません。どうぞご教授下さい。
もうこれ以上自分で自分の首を絞めるのはやめよう
その方法は選挙しかないのです。選挙こそが民主主義の最大の手法です。これをないがしろにすれば、そりゃ、権力者にとってこれほどありがたい話はありません。「誰を選んでも変わらない」そう言っている間に、確実に一般国民にとって悪い方に世の中は変わってしまいました。しかし、これは、私たち一般国民が、結局は、自分で招いたことなのですね。そのためには国民もしっかりと勉強して政治家を選ばなければなりませんね。
田舎の人自身が選んだ道なので仕方がないといえば仕方がないのですが、政治によって、選ぶ政治家によって、世の中は変わっていくということを、日本人はやっぱり学習していくしかないと思います。民主主義とは選挙そのものだということを。
ここまで徹底的に田舎が締め付けられている今、もし、今回の選挙で、田舎においてまだ自民党候補が勝つようならば、ほんとに日本人は民主主義ということを知らず、日本に民主主義はないということの証明ではないかと私は思ってしまいます。
ずいぶんと自民党批判を書いてしまいました。これはあくまでも田舎からの視点、、農政の話です。・・選挙が少し楽しみです。
浮かれていたツケ
結局、田舎人も目先のお金に目がくらみ、農・土、そして命を軽く見てきてしまったそのツケが今、田舎の衰退として現れているのだと思います。やっぱり、田んぼ、畑、山を維持してこそ、田舎社会は成立するのだと思います。どんなに工場を誘致してもそれだけではやっぱり続かないのです。
今からでもそれに気づいて、立て直していくしかないと思います。もし、それができれば、都市も含めて日本は良い方に変わっていくと思うのですが。 |
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